高嶺燈馬サマから頂きました。ありがとうございましたvv













「伊藤君。次のお休みに、どこか行きたいところはありますか?」



そんなことを、七条さんが聞いてくれた。

いつでも、七条さんは俺の意見を優先しようとしてくれるから、嬉しい。

なんだか、七条さんの特別みたいで。

会計部の紅茶も、前に俺が『あ、これ美味しい』とつい漏らしたのを聞いていたのか、

結構な頻繁で出てて、西園寺さんに笑われたし。

会計部のお茶菓子も、常備してくれてるし。

七条さんに愛されて、幸せだと思う時は、いっぱいある。



ふふふ、とつい笑ってしまったら、

一緒にお茶を飲んでいた西園寺さんと七条さんも、

優しく笑いかけてくれた。



「ゆっくり考えてくれて構いませんよ。まだ少し、日にちがありますから」

「はい」

「・・・しかし、私も啓太の行きたいところには興味があるな。

どこか希望はあるのか?可能ならばどこへでも連れてってやるぞ?」

「え・・?えーと・・」

「郁。駄目ですよ。伊藤君は、一日たりとも貸してあげません」

「啓太が良いと言えば良いだろう?」

「駄目です」



そういう西園寺さんと七条さんの間には、

なんだか微妙な空気が漂ってる。

ふと、外の光景が目に入った。



「あ、七条さん」

「はい?」

「俺、お花見行きたいです」



春ともなれば、桜が舞う季節。



「・・・駄目、ですか?」



いくらなんでも、どうだろう・・・と思って、おそるおそる七条さんに尋ねれば、

にっこりと微笑む七条さんと目があった。



「開花宣言が出ましたしね。きっと、次のお休みには、満開ですよ」

「ホントですか!」

「ええ。朝早く起きて、お弁当を作りますね。桜の綺麗な穴場も探しておきます」

「はい」



なんだか、すごく嬉しくなって、上機嫌になっていたら、

西園寺さんに、苦笑された。



「お前は本当に素直だな」

「はは・・」

「そこが可愛いんですよ」

「・・七条さん・・・」



でも。

楽しみだなぁ。お花見。
















●Cherry blossom●






















「うわぁ。綺麗ですねっ!」



七条さんに連れられたところで、俺の第一声はそれだった。



「ええ。とても綺麗です」

「人もあんまりいないし・・・凄いです、七条さん!」

「ふふ。それだけ褒めて頂けると、光栄ですね」



なんて七条さんは言うけど。

でも、ホントにすごいと思う。

俺が毎年行ってる所なんて、家の近くだから人がごみごみしてて、

桜を楽しむなんてあんまりしなかった。



「有難う御座います、七条さん」

「いえいえ。伊藤君の為ですから」



にっこり笑う七条さんからは、苦労とかわからないけど。


でも、頑張ってくれたんだろうな、とは思う。

それに、本当にお弁当作ってくれたし。

(ちなみに、俺は七条さんが起こしてくれるまで寝こけていた。

・・・七条さんが起きたのにも気づかずに、だ。)



「・・・すいません、七条さん」

「何がですか?」

「俺、今日のこと全部七条さんに任せちゃって・・・。俺が行きたいって言い出したのに」

「良いんです。僕が伊藤君にしてあげたかったんですから」

「でも・・・」

「恋人に尽くすのは、当然でしょう?少なくとも、僕は君に尽くしたいですから」


『恋人』というその響きに、顔が火照る。

もう慣れないと・・・とは思うものの、

慣れるまでには、もう少し時間を要しそうだ。



「ふふ。可愛いですね」

「・・・か・・・わいいとか・・・・そゆこと言わないでください・・・」



からかわれてるっていうのはわかってるんだけど、

でも、言い返せないのは、惚れた弱味か単純に俺が弱いのか・・・。



「さぁ、伊藤君。折角ですから桜を見ましょうね」

「はい」



七条さんに促されて、桜を振り仰ぐ。





目に映ったのは、

風に踊る、ピンクの花びらだった。



散る。

桜。

桜が。

散る。

舞いながら。

散っていく。





風が吹いて、

一気に、桜の花びらが舞い散った。



ふと。

一抹の不安が頭によぎる。





「・・・伊藤君」



優しく呼びかけられて、やっと俺は正気に戻る。



「あ、はい。すいません」

「ねえ、伊藤君。来年も来ませんか?」

「あ・・・来年・・・ですか・・」

「はい。来年。僕が卒業してからも、一緒に遊びませんか?」

「え・・・」

「それとも、僕が卒業しちゃったら、僕のことは嫌いになってしまいますか?」



ぶんぶんっと、首を横に振る。



「あのっ。・・俺、七条さんが卒業した後も、一緒に遊びに行って良いんですか?」

「伊藤君がよければ。是非」



良いも悪いもない。

七条さんは今年で三年生。

受験勉強なんてするようなBL学園の生徒じゃないから、つい忘れがちになってしまったけど、

高校3年生っていうのは、卒業生なんだ。

王様達が卒業しちゃって、やっとその実感が湧いてきた。

卒業の花を持って、下級生に囲まれて笑っている光景を見て、

俺は、来年は七条さんがいなくなっちゃうんだなぁ。って。

その時は、すごく悲しくて、

桜を見てたら、どうやらそれを思い出してしまったらしい。

だから、七条さんの言葉は、すごく嬉しかった。



「じゃあ、来年も一緒に見ましょうね」

「はい」

「約束です」



ふふ、と七条さんが笑ってるけど、気にしない。

だって、ずっと七条さんといられるんだもん。



「来年も、その次も、ずっとお弁当作ってきますね」

「はい。あ・・・・でも、良いんですか?」

「何がですか?」

「その・・俺も、何かした方が・・・」



だ・・・・だって、荷物は持ってもらってるわ、朝は起こしてもらうは、

お弁当は作ってもらっちゃってるわ、場所は探してもらうわ・・・。

俺がしたことなんて、『お花見したい』と提案したことくらいだ。

申し訳ない。



「ふふふ。僕がいくら言っても、伊藤君は納得してくれないんですね」

「・・・うう・・・」



なんとなく心の収まりがつかないでいると、

ふいに顎を持ち上げられた。



チュ。



「〜〜〜〜〜っ!し、七条さんっ!!」

「はい。何ですか?」

「何ですか?じゃないですよっ!!」



だっ、だってここ人が・・今はいないけど、

でもここは一応屋外だし、いつ人が来るかわからない。



「こんなとこで、き・・・キスとかしないでくださいっ」

「おや。駄目でしたか?」

「駄目ですっ!」



一生懸命抵抗したら、七条さんは『残念』と言って、腰にまわしていた手を離してくれた。

嬉しい・・・んだけど、ちょっと悲しいって思う俺は、

七条さんに感化されて、甘えん坊さんになっちゃったのかもしれない。



「でも、こうやってお礼を貰ったら、伊藤君も気にしなくて済むでしょう?」

「・・・・お礼・・・ですか・・」



・・・確かに気にしなくても済むけど、

それもどうだろう・・。

・・・・まあ、七条さんが良いなら良いか。



それから俺は、七条さんの行動は気にせず、もう1回桜を仰ぐ。



「そうですね。来年のことより、まずは今年を楽しまないと」

「はい」



七条さんも一緒に、桜を眺める。

桜って、不思議だと思う。

これだけ花びらが散っても、桜はまだたくさんあるし、

綺麗だから、いくら見てても飽きない。

さっきまでの不安なんか、七条さんの言葉でふっとんで、

飽きることなく、散る桜を見ていた。
















俺は、機嫌が良かった。

七条さんとずーっと一緒に居られるってことがわかって、

舞い上がりすぎてた感はある。

・・・その後、七条さんのお弁当を食べて、満足した俺は、

七条さんに思い切り懐いてしまって。

七条さんの求める『お礼』とやらは、キス一つじゃ足りなかったらしく、

土曜日・日曜日と2連休だったことも災いしてか、翌日は外に出られなかった。

・・・機嫌が良くなってた俺がほとんど抵抗しなかったっていうのも、理由の一つ。

これを毎年求められるのか・・・と思うと、

なんだか嬉しいような困るような、そんな複雑な俺だ。

・・・・・・・・・・・・・・嬉しい方が、比率が多いんだけどね。




























●あとがき●

はい。2万リクですので、葵葉奈様へ。
リクエスト、有難う御座いました!
お花見、というリクエストでしたので、
丁度高嶺もお花見に行った所でしたし、桜が散らないうちに、と。
もう少し短くする予定だったのですが、かなり長ったらしくなってしまいました。
七条さんなら、ものすごく綺麗な桜の穴場とか探してきやがりそうです。

来年のことよりも、今年のことを見ろよーってな感じですが、
桜を見ると、来年のことを考えてしまう高嶺です。
来年は七条さんも卒業してしまうんだなー・・・と悲しくなっちゃった啓太君。
少しは西園寺さんにも構ってあげてください。(笑)
・・・・・・・・・て、気づいたけど、もしかして春休みの時期ですか?彼等は。
・・・ま・・・あ・・・目をつぶってください・・・。











高嶺様のサイトで20000hitを踏みました記念にいただきました。
満開の桜が、ひとひらひとひら風に吹かれて散っていく様が目の前に広がるようです。
啓太君と七条さんのラブラブに癒されてます。
高嶺様、素敵な小説をどうもありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。


                      葵葉奈